墓参りの日に

 

世の中、何が怖いって、生きてる人間ほど怖いものはないよ。

憎しみ、嫉妬、憎悪諸々、理屈じゃない感情が渦巻いている。

その礫は、時に人を選ばない。

たとえ、悪意はなくとも、個々の違いが誤解の連鎖ともなる。

反撃できるほどの力を持たないものは、悲しみにくれるばかりだ。

 

となると、死者たちの墓は安楽の地だ。

かつて生きた証の小さな骨を留めるだけで、もう、何も語らない。

死は絶対だ。これ以上に不可逆的なものはない。

愛する者よ、幽霊でもよい、出てきて姿を見せてよ、声をきかせてよ、と願うが、

今だ、一度も叶ったことはない。

逝ってしまった者たちへの愛と哀しみ、悔恨が、

生き残った者の中で、胸苦しく回るだけだ。

 

墓参りの今日一日、

明るい花と心尽くしの供え物に彩られて、吹き渡る風の中に身を置いている。

そう遠くない日、私もまた、この地に安らぎを見つけるだろう。

無に帰るのだ。かつて、私など存在することもなかったかのように。

山の上、やさしい木々のそよ風があるだけだ。

 

人間の脳内の複雑系に立ち入ることはできないが、

人は人によって傷つき、人によって救われるのも真実だ。

人々の揺らぎの中で、戸惑い、立ち尽くし、あちらこちら突き当たるばかり。

未来は果てしなく続くように思われるが、時は過ぎてしまえば一瞬の夢のよう。

命あるもの、誕生のときから、すでに、自らの死を内包している。

生きとし生けるものの定に感謝しようと思う。

(たてよこ・ななめのフリースペースでの発言 松尾美絵)